トイレの見守りサービス「トイレビアン」を開発した株式会社フォーリーフクローバーの榎本社長にお話を伺いました。当社では経営革新計画策定の支援を行いました。今回は新規事業の具体的な内容、計画策定から実行までの実体験や今後の展望などについてお話を伺いました。
伊藤:新規事業について教えてください。
榎本さん:商業施設やコンビニエンスストアなどのトイレ利用の適正化を促すサービスの開発を行いました。商業施設やコンビニなどの不特定多数が利用するトイレでは1人の利用者による長時間利用、トイレ内の汚れ、備品の破損、といった事案が発生しています。駅ビルなどでトイレがなかなか空いていなくて困ったことはありませんか?個室でスマートフォンを操作する人などが多く、特にトイレ利用の長時間化が大きな問題になっています。
伊藤:確かにトイレに入れなくて困ることはありますね。具体的にはどのようなサービスでしょうか?
榎本さん:利用者がトイレに入室すると音声が流れます。その後、利用時間に応じたメッセージを流すことで利用者に自身の利用時間を知らせることができます。店舗側としては、トイレに入室した時に入室ランプが点灯し、入口付近を確認すれば空き状況を把握することができます。新幹線や飛行機のトイレに空き状況を把握するランプがついていると思いますが、そのようなイメージです。仕組みとしては、ドア部分にセンサーを設置して時間の経過を把握し、時間に応じてメッセージを発信する仕組みとなっています。すでに設置した店舗では、トイレの利用時間が従来よりも短縮した、トイレが汚れなくなった、トイレットペーパーが盗まれなくなったなどの効果が得られています。
伊藤:すでに効果が出ているということは素晴らしいですね。サービスの着想はどこから得たのでしょうか?
榎本さん:ありがとうございます。サービスの着想は経営者仲間の中にコンビニエンスストアを運営している方がいまして、何気ない会話の中からトイレ利用に関する悩みを抱えていることを知りました。トイレに監視カメラをつけるわけにもいかないですし、なかなか対策が打ち出しにくい部分でしたので、逆にチャンスがあるのではないかと思って事業を進めました。このような経緯もありまして、現在はコンビニエンスストアのトイレ見守りに特化して事業を進めています。
伊藤:事業を進める中でどのような苦労がありましたか?
榎本さん:これまでの取り組みでは特許の取得とドアノブのセンサー検知の実証実験ですね。特許については事業構想の段階から取得は必須だと考えていました。理由としては、構造が比較的シンプルでしたので、アイデアを模倣されたくなかったからです。特許の取得をするまでに3年かかりましたし、自分自身でも特許庁まで訪問を行いました。ドアノブのセンサーについてですが、コンビニのドアノブはいくつかの種類があります。まずは複数あるドアノブの中からどのドアノブに対応するか選定し、その後、センサーの仕組みを試行錯誤して今の形になりました。鍵のかけ方によってはセンサーが感知しない誤作動などが起きてしまうこともあり、実証実験はいろいろな想定のもとで行ったため、実証実験は多くの回数を重ねましたね。
伊藤:今回は経営革新計画として申請をしたいというご相談をお受けしましたが、特許にも関係していたのでしょうか?
榎本さん:特許はすでに申請していた段階でしたのでそれほど大きな理由でなく、一番の目的は今後の取り組みを客観的な視点で評価をしたかったことです。誰かの承認による権威付けということよりも、専門家や公的機関からの忌憚のない意見を聞くことで、本当に世の中に必要とされているサービスなのかどうかチェックをしたいという意味合いが強くありました。また、自社では気づくことができない盲点もあるのではないかと考えていましたので、計画申請を通してそれらを見つめなおしたいと考えていました。サラリーマン時代には開発者としての思いを優先して商品開発をした際に、あまり結果がついてこないという経験をしました。今回の事業は構想段階から手ごたえを感じていたのですが、それでも第三者の視点を入れて検討したいという思いがありました。
伊藤: 過去の経験からの取り組みだったのですね。実際に計画策定をして良かったことや気づいたことはありますか?
榎本さん:計画を策定する中で方針を決めることができたことは良かったと感じています。例えば、販売方法については自社による直接販売を想定していましたが、販売計画を立てていく中で代理店を活用した販売方法を目指すことになりました。早期に市場のシェアを獲得したいという狙いがありますが、達成したい販売数量を具体化した時に自社のリソースだけでやりきることは困難だと考えたからです。これは収支計画を立てたことで初めて気づくことができました。また、事業計画を社員や金融機関の方に開示することで自社の方向性を共有することで社内の一体感が生まれましたし、社外にも応援してくれる方が増えました。
伊藤:目には見えない成果ですね。今後の取り組みで不安に感じていることはありますか?
榎本さん:特許は既に取得していますが、類似している商品が市場に出始めていることは気になっています。価格や機能で優位性はあると考えていますが、今後の取り組みの中では予断を許さない状況になっています。デファクトスタンダードになるためには販売量やスピードが重要になってきますが、そのためには装置のコストダウンや品質向上が必要です。代理店販売の仕組みを構築するなど、課題はまだまだあると考えています。
伊藤:新しい取り組みを考えている経営者に何かヒントがあれば一言お願いします。
榎本さん:実はトイレの見守りサービスについてはもともとトイレ用ではなかったんです。色々なアイデアを考えながら、試行錯誤を繰り返す中で今回のサービスにたどり着きました。今回のケースでは最初からゴール設定が明確であったわけではなくて、いろいろなところにアンテナを張っていたことで潜在的な顧客ニーズに気づくことができたと思っています。ゴール設定が明確になっている人は別ですが、行動しながら考える、考えながら行動することを繰り返しながら、複数の視点を持つことや視野を広げる意識は大事だと思います。
伊藤:最後に今後のビジョンを聞かせてください。
榎本さん:この事業を行うまでは顧客に合わせたオーダーメイド品を作っていました。起業した時から自社のオリジナルの製品やサービスを世の中に出したいと思っていましたが、やっとオリジナルサービスをリリースするに至りました。今後は当社の新サービスと会社のイメージが一致することを目指していきたいと思い描いています。「トイレ見守りサービスならトイレビアン」と連想してもらえるようなサービス、企業にしていきたいと思います。