先日、事業拡大を検討されている経営者の方から相談を受けました。移転と新規事業の両方を同時に進めたいというお話で、「補助金を活用できないか」というご希望をお持ちでした。しかし、最終的にその方は補助金の活用を見送り、金融機関の融資を選択されることになりました。今回のご相談を通して補助金活用における重要な注意点を改めてにんしきしたので、今回はその体験談をお伝えしたいと思います。
相談の背景
その経営者の方は、現在の事業が順調に推移していて、より良い立地への移転を検討されていました。同時に、これまでとは異なる分野での新規事業展開も視野に入れており、「どうせなら補助金を使って効率よく進めたい」とお考えでした。確かに、設備投資や新規事業には多額の資金が必要で、補助金が活用できれば経営への負担を大幅に軽減できます。
補助金活用の現実的な制約
しかし、補助金について詳しく調べていくうちに、いくつかの課題が浮き彫りになりました。まず、タイミングの問題です。補助金には公募期間があり、その時期に合わせて事業計画を立てる必要があります。しかし、事業の最適なタイミングと補助金の公募時期が必ずしも一致するとは限りません。この方の場合、移転の時期と補助金のスケジュールが合わず、事業計画に無理が生じることが分かりました。
次に、事業内容の制約です。補助金にはそれぞれ対象となる事業内容や要件が定められています。移転と新規事業を同時に行うという計画が、補助金の要件に完全に適合させるのは難しく、事業内容を補助金に合わせて調整する必要が出てきました。
さらに、賃上げやさまざまな制約条件がありました。補助金を受けると、事業実施期間中の報告義務や、完了後の一定期間における事業継続義務などが発生します。これらの制約が、柔軟な事業運営を妨げる可能性も考慮する必要がありました。
経営計画見直しの気づき
このような制約を踏まえて経営計画を作り直していく過程で、相談者の方ご自身が重要な気づきを得られました。それは、移転と新規事業を同時に進めることの難しさでした。
移転だけでも、新しい立地での顧客開拓、スタッフの慣れ、オペレーションの調整など、多くの課題があります。そこに加えて新規事業まで同時に立ち上げるとなると、経営資源が分散し、どちらも中途半端になってしまうリスクが高いことに気づかれたのです。
最終的な選択
結果として、この方は補助金の活用を見送り、金融機関からの融資を選択されました。そして、事業展開についても戦略を大幅に見直し、二段階方式を採用することにされました。第一段階では移転に集中し、新しい環境での事業基盤をしっかりと固める。第二段階として、移転が落ち着いてから新規事業に取り組むという計画です。
既存事業強化のメリット
さらに検討を進める中で、新規事業よりも既存事業の強化に注力する方向性も見えてきました。これには複数のメリットがありました。まず、リスクを大幅に抑えられることです。既に実績のある事業領域での展開なので、市場の反応や収益性をある程度予測できます。金融機関に対しても、未知の分野への事業展開よりは説明がしやすくなります。
次に、投資金額を抑えられる点です。全く新しい分野に参入するのと比べて、既存事業の延長線上での強化であれば、必要な設備投資や人材育成コストを最小限に抑えることができます。
そして最も重要なのは、既存の強みを最大限に活用できることです。これまで培ってきたノウハウ、顧客基盤、ブランド力などを活かした取り組みに集中することで、より確実な成果を期待できるようになりました。
補助金活用の教訓
補助金は確かに魅力的な資金調達手段ですし、過去にも企業支援を何度も実施しました。しかし、補助金ありきで事業計画を立てるべきではないということです。まずは自社にとって最適な事業戦略を練り、その上で補助金が活用できるかを検討するという順序が大切です。
また、補助金の制約が事業の柔軟性を損なう可能性も十分に考慮する必要があります。短期的な資金メリットと引き換えに、長期的な事業運営の自由度を制限してしまっては本末転倒です。
まとめ
補助金は適切に活用すれば非常に有効な手段ですが、タイミング、事業内容、制約条件など、様々な要素を慎重に検討する必要があります。今回の相談者の方のように、一度立ち止まって事業計画を見直すことで、より現実的で確実な成長戦略を見つけることができる場合もあります。
経営者の皆様には、補助金という選択肢に固執せず、自社の状況に最も適した資金調達方法と事業戦略を選択していただければと思います。
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