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食品流通業における差別化戦略:ストーリーと体験を通じた価値創造

 酒類流通業界で10年間勤務してきた経験から、この流通業の特性と課題について深く理解することができました。流通業の最大の課題は、取り扱う商品そのもので差別化を図ることが難しいという点です。私自身が中小企業診断士というコンサルティングに関する資格を取って、差別化を図りたいと思ったきっかけの1つでもあります。

 同じ銘柄、同じ価格帯の商品を扱う競合他社との間で、いかに自社の存在価値を高めていくか——これは酒類だけでなく、多くの流通業に携わる方々が直面している課題です。先日、別の流通分野(食品)で活躍されている経営者と意見交換する機会があり、業種は異なれど同様の悩みを抱えていることがわかりました。その対話を通じて見えてきたのは、単なる「大量販売」から脱却し、いかに「付加価値」を創出していくかという方向性の重要性でした。

流通業の本質的課題

 流通業の宿命として、取り扱う商品自体は製造元が決めるものであり、その品質や特性で自社だけが優位に立つことは困難です。価格競争に走れば利益率は下がり、長期的な経営が危うくなります。では、どのように差別化を図るべきなのか。

 私たちが辿り着いた1つの答えは、「消費者目線で語られるストーリー」と「記憶に残る体験の提供」でした。お酒や食品は単なる飲料ではなく、文化であり、人々の人生の節目や日常に彩りを加える存在です。この本質を理解し、活かすことが、現代の酒類流通業において成功の鍵を握っているのです。

ストーリーが持つ力

 例えば、お酒には必ずストーリーがあります。その土地の風土や歴史、造り手の考え方、受け継がれてきた技術など、語るべき物語は豊富です。しかし、これらの情報は単なるデータとして伝えるだけでは、消費者の心に響きにくくなってしまいます。

 私が前職での成功事例を一つ紹介します。ある地方の小さな蔵元の日本酒を取り扱った際、単に「純米大吟醸・○○」という商品説明ではなく、「三代目蔵元が父の病をきっかけに東京での会社員生活を捨て、故郷に戻って守り抜いた、地元の米だけで醸す一本」という物語と共に提案しました。これにより、同価格帯の他商品よりも高い受注に成功しました。

 お客様は単にお酒を買うのではなく、そのストーリーに共感し、その一部になることに価値を見出していると感じた瞬間でした。

体験を通じた価値創造

 ストーリーと並んで重要なのが「体験」の提供です。デジタル化が進む現代だからこそ、実際に見て、触れて、感じる体験の価値は高まっていることを感じます。

例えば、酒類の製造業では定期的に「蔵元を囲む会」を開催し、造り手と消費者が直接対話できる場を設けています。同様に農作物の生産者では「生産者マルシェ」を企画し、地元農家さんの考え方や思いを伝える場を設けています。

 これらは単なる試食・試飲会ではなく、生産者の想いや苦労話を聞きながら、その場でしか味わえない特別な食体験を提供するイベントです。参加者の多くがその後、熱心なファンとなり、SNSでの情報発信や口コミによる新規顧客の獲得につながっています。

これからの食品流通業のあり方

 今後の食品流通業が進むべき道は、「商品提供者」から「価値体験の案内人」へと進化することです。食品そのものの品質は当然重要ですが、どのような体験と共に提供するかが差別化するためのポイントだと考えます。

 例えば、同じ有機野菜であっても、単に「無農薬です」と説明するだけでなく、「この大根は高齢の農家さんが50年かけて自家採種してきた固定種で、地域の伝統的な漬物に最適の品種です」と伝えることで、その価値は大きく変わります。また、チョコレートなら「このカカオ豆はエクアドルの小規模農家と直接取引し、適正価格で購入したもので、伝統的な製法で発酵・乾燥させることでフルーティな香りが特徴です」といった背景情報が付加価値となります。

 消費者が求めているのは単なる「食品」ではなく、その先にある「豊かな食卓」や「特別な食体験」、「生産者とのつながり」です。食品流通業者はこの本質を理解し、商品の背景にあるストーリーを掘り起こし、伝え、共感を生む体験を創出していくことが求められています。大量販売から質の高い体験提供へ。食品流通業の新たな価値創造の1つの方向性だと考えます。

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 昨日はここ数年ドはまりしているバンド10-FEETのワンマンライブの後に、三軒茶屋にあるもつ焼き屋さんで生ホッピーを飲みました。もつ焼き&ホッピー大好き人間としては最強の組み合わせの1つです。関東圏ではホッピーは人気商品ですが、かつてはここまでの知名度はなかったと思います。思い返してみると、ホッピーもストーリーがありましたよね。

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