飲食店経営において、売上と利益のバランスを最適化することは常に重要な課題です。今回は、ある飲食店でのコンサルティング事例を通じて、ABC分析を活用した価格戦略とメニュー構成の見直しについてご紹介します。
値上げの相談からABC分析の実施へ
クライアントの飲食店から「値上げを検討したい」という相談を受けた際、まず私が行ったのは、商品をドリンクとフードに分けたABC分析です。一律に原価率を上げるアプローチではなく、商品ごとの売上貢献度と利益貢献度を正確に把握することで、より効果的な価格戦略を立案しました。
ABC分析とは、商品を売上や利益への貢献度によってA(上位)、B(中位)、C(下位)にランク分けする手法です。この分析を通じて、以下のような重要な発見がありました。
1.フードカテゴリーでは、主力商品群の売上貢献度が高いにも関わらず、利益貢献度が低い商品が多数存在
2.店全体としてフードとドリンクのバランスがフードに大きく偏っている
3.ドリンク、特に日本酒の売上高と利益額に対する貢献度が非常に高い
ここからは、ABC分析の手法に関する言及ではなく、分析後のデータをどのように活用して改善策を策定したのかという点についてお伝えします。
主力商品の戦略的値上げ
ABC分析の結果を踏まえ、一律値上げではなく、値上げ対象商品を絞った戦略を提案しました。具体的には、あるフードカテゴリーの中でも「売上貢献度が高いが利益貢献度が低い商品」を特定し、それらの価格を調整することにしました。
このアプローチには以下のメリットがあります。
1.人気商品であるため、適切な値上げであれば顧客の受容度が高い
2.売上全体に占める割合が大きいため、少額の値上げでも利益改善効果が大きい
3.すべての商品を値上げするわけではなく同カテゴリー内の一部の商品を値上げするので、顧客の心理的抵抗を最小限に抑えられる
ドリンク比率の戦略的向上
分析の結果、店舗の売上構成がフードに大きく偏っていることも判明しました。FD(フード・ドリンク)比率と呼ばれる指標です。一般的に、ドリンクはフードよりも利益率が高いケースが多いため、ドリンク比率を高めることで全体の利益率向上が期待できます。
今回の分析では、ABC分析から日本酒の売上高と利益額に対する貢献度が高いことが明らかになりました。この結果から日本酒の出数を増やす戦略を検討しました。
1.季節限定日本酒の種類を増加させ、通常よりもポーションを小さくして提供。これにより、客単価を維持しながら利益率を改善。
2.顧客にとっては「季節限定の特別感」を演出しつつ、様々な種類を試せる魅力を提供。
「酒のあて」カテゴリーの新設による相乗効果
日本酒の消費を促進するため、「酒のあて」という新カテゴリーを新設することを提案しました。これは単なるおつまみではなく、日本酒との相性を強調したメニュー群です。ホタルいかの沖漬けや酒盗クリームチーズなどが該当します。このカテゴリー新設には以下のような狙いがあります。
1.日本酒を注文するきっかけを増やす「日本酒と酒のあて」というセット消費を促進
2.提供するフードメニューで店の独自性と専門性をアピールする差別化要素となる
「酒のあて」メニューは日本酒と一緒に注文されることを前提に、価格と原価を設定することで、セット消費時の総合的な利益率を最適化することも可能になります。
成功のポイント
今回のコンサルティングでのポイントは以下の通りです。
・感覚的な値上げではなく、データに基づいたABC分析を実施
・一律値上げではなく、商品ごとの貢献度に応じた戦略的価格設定
・フードとドリンクのバランスを見直し、高利益率カテゴリーを強化
・日本酒という強みを活かした独自のメニュー構成
・単品の利益率だけでなく、相乗効果を生む商品構成の設計
このように、ABC分析を出発点として、メニュー全体を戦略的に見直すことで、値上げという課題に対して多角的なアプローチが可能になります。
価格だけでなく、商品構成や提供方法の工夫を組み合わせることで、顧客満足度を維持しながら利益改善を図る道筋が見えてきます。
飲食店経営において、データに基づく冷静な分析と、顧客心理を考慮した創造的な提案を組み合わせることが、今後ますます重要になるでしょう。
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4月の研修シーズンがやっと落ち着きました。池尻大橋で泊りの際に寄った銭湯、文化浴泉。入ってみるとインバウンドが多くてびっくり。海外の人も風呂が好きなんだなと思いました。気分だけは、池尻大橋民になれた気がしました。